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2006年12月30日 (土)

「スター・ウォーズ」と日本の特撮・アニメ

題名不詳:

 スターウォーズが日本の特撮やアニメーション映像にどのような影響を与えたか、それを探るのが本稿の目的である。

◇遅れた本邦公開◇

 米国でスターウォーズ(以下SWと略)がブレイクしてSFXブームが起きた1977年は、日本でも「宇宙戦艦ヤマト」によるアニメブーム元年だった。
「ヤマト」は「鉄腕アトム」などテレビアニメで育った世代がハイティーンになるタイミングでブームになった。アニメになじみ、マンガじみた表現以上のものを潜在的に求めていた観客層を新たに開拓したわけだ。SWも、第二次世界大戦のイメージを踏襲しつつ宇宙空間を舞台にした戦争もので、高度な映像技術を駆使したエフェクト映像で娯楽に徹底して仕上げた作品という点で共通性がある。不思議なシンクロであった。
 しかしSWの日本公開は、1年遅れ78年まで延期されてしまった。当時雑誌媒体では著名人が渡米して見てきたコメントを載せ、事前情報を山のようにフカして回った。結果、SFファンたちの脳裏には膨らみまくったイメージによる華麗なるSW映像ができあがってしまった。ライトセイバーの光る玩具を始めとするグッズ先行販売も拍車をかけ、本物の映画が公開されると各自の中にできあがった「オレSW」よりはどこかしら劣る映像とのギャップに激しく悩んだ人も多かった。

◇日本特撮作品へのインパクト

 SW公開によって宇宙SFブームが起きるに違いない。国産作品への影響は、そんな期待をになってまず特撮作品に現れた。
 トップバッターは、東宝映画の78年お正月映画「惑星大戦争」だ。この題名は、SWの日本公開タイトルに予定されていたものだ。東宝特撮のお家芸は、空間をジグザグに切り裂くイナヅマ光線なのだが、「赤い針をバラまいた」と評されたレーザービームの表現がSWの影響ではないか。全体の作風という点では、「海底軍艦+宇宙戦艦ヤマト」といった要素の方が色濃い映画だった。
 78年春、テレビでは円谷プロ制作「スターウルフ」が始まった。エドモンド・ハミルトンの原作を円谷プロが特撮にするというのも、SWブームのもたらしたものだった。バッカス3世号が画面上方からフレームインする映像や、ウルフアタッカーなど宇宙船のデザインに影響が見られる。本作では、模型を黒子が手持ちで操作し、宇宙空間に合成するという疑似モーション・コントロールで撮影された。
 東映はSW公開直前、「仁義なき戦い」で有名な深作欣二監督による「宇宙からのメッセージ」を製作した。原作は石ノ森章太郎、特撮監督は矢島信男で、「ヒーローの出ない東映特撮ヒーローもの」総決算という内容だった。この作品では、画面いっぱいに迫る宇宙船や、宇宙要塞の溝をすり抜けてのドッグファイトなど、SWを厳密に参考にした画面が登場した。だがそれらは、ネガティブな意味で話題になってしまった。
 「メッセージ」では対象物を接写できるシュノーケル・カメラで撮影が行われた。これが、上下左右を閉ざされた空間を疾駆するドッグファイトというSWもやっていなかった映像も可能にしていた。この要素はSWの3作目に逆フィードバックをかけているのではないか。SWのモーション・コントロール・カメラ技術は、複雑な動きを可能とする反面、どうしても無機質に感じられる。
特別編では、さらにCG画像に差し替えられていることから、SWの方向性が「完全な動きのコントロール」にあることが判る。だが「スターウルフ」や「メッセージ」は、手持ちカメラに近い浮遊感があり、模型じみたチープな感じは否定できないものの、今見ると妙に迫力と味のある映像である。このようにSWに対して別の魅力もあったのだが、無視されてしまったのは残念だった。

◇SW公開前後のアニメ作品◇

 アニメでのSW影響第1作目、それはテレビから始まった。
 SWのSF界における最大の功績は何だろうか?それは「ライトセイバー」というアイテムの創出だろう。SW以前のSFでは光線銃というアイテムはあっても、「光線剣」は無かった。時代劇にこだわるルーカスが、SFの世界にチャンバラを持ち込みたいと考えたからこそのアイテムだ。
 日本のアニメでも、「光線剣」の導入から影響が始まった。第1号は、78年の富野監督作品「無敵鋼人ダイターン3」。オープニングに光る剣を持つ女性コマンダーが登場している。とにかく「ダイターン3」は、SW影響の最先端を行っていた。悪の首領ドン・ザウサーがコロスという美女に出す指令は、第2話で初登場したときは「あーー、あっ、うーー」という唸り声だった。それが途中の回から急に「しゅーーー、ぱほーー、がーー」という呼吸音になってしまった。SWの日本公開直後の出来事で、当時のアニメファンは「と、トミノさん、見ましたね……」とささやきあったものである。
 「ダイターン」の映像で特筆すべきは、エフェクト・アニメーター金田伊功入魂の作画が冴える「遥かなる黄金の星」という回だ。主人公・波嵐万丈が母から受け取った金塊を乗せ、火星からひとり脱出するまでの回想を描いたエピソードで、衛星フォボスで追撃する宇宙戦闘機を崖の中をくぐり抜け降りきるドッグファイトが、SWを見た直後の金田伊功によって鋭く描写されていた。
当時の筆者は金田の所属していたスタジオZを訪問したとき、作画机の金田が「SWテクニカルマニュアル」と、星野宣之のコミック「巨人たちの伝説」を見ながら鉛筆を動かしていたのを目撃している。完成画面で宇宙船はSWのように光源のきつい宇宙空間ならではの白黒を強調したモノトーンで描かれていた。そのディテールはテレビにしては異様に細かく、担当動画マンは「金田さんに悪いものを見せた、線がメチャメチャ増えてる~」と泣いていた。
 「ダイターン」以前に話題になったのは、「宇宙戦艦ヤマト」の続編「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」だった。1作目のヒットを受けて78年夏公開と決定するや、すぐさまSWとのバッティングが取り沙太された。西崎プロデューサーは、メインスタッフを連れてハワイに遠征した。目的は、日本ではまだ見られなかったSWとスピルバーグ監督「未知との遭遇」の2大SFX映画を研究するためだった。ビデオのない時代を感じさせる。「スターウォーズはただの娯楽映画で(愛をテーマにした)ヤマトにとってはおそるるに足らず」云々。こんな趣旨の談話も雑誌に掲載された。当時いち早く偵察に行った国内映像関係者は、どういうわけかこのようなコメントをあげている。
 「さらば宇宙戦艦ヤマト」が公開されると、きらめく光に包まれた新造戦艦アンドロメダや、ビルを乗せた半球形の都市帝国は「未知との遭遇」、ヤマト艦載機が大軍となって球形の要塞に侵攻し、ワンポイントをくぐって動力炉破壊という展開になっているのは、SWの影響が強く感じ取られた。このドッグファイトもダイターン担当直後の金田伊功の手によるもので、以後、金田は日本におけるアニメのエフェクト専門家として大きく注目を浴びていくようになる。

◇ガンダムへの影響度◇

 SWからインスパイアされ以後の流れを変えた作品として「機動戦士ガンダム」に触れないわけにはいかない。もともとガンダムが普通のヒーローものよりSF的な要素を強化できたのも、SWのヒットあってのことでもあるし。
 ガンダムのビームサーベル。ついに日本の巨大ロボットが、光線剣を使うときがきた。ただ光線剣を使っただけではない。剣をかっこ良く描くには、収容されている「静」の状態、これをいつどう抜いて「動」に転じさせるか、それが重要だ。これこそ日本のオリジナルな発想ではないか。凡庸な作品だと、「刀」は「腰」に装備させるだろう。ガンダムは違った。背中から抜く。おお、佐々木小次郎!場合によっては2本抜く。おお、宮本武蔵!これがカッコ良さを何倍増しにもした。
 ガンダムでは、剣を持つロボットのヒーロー性にも工夫がなされていた。敵側のザクには「ヒートホーク」という「熱で切る」武器を持たせているが、ガンダムのビームサーベルはより進歩した特別なアイテムとして描かれ抜いているのだ。「比較で凄さを描写する」というのも演出の知恵である。ルークの相手は人間だが、ガンダムの敵はロボット。ためらいなくビームサーベルの熱で装甲は貫通し、切断面を溶融し、まっぷたつにするという表現も可能になった。
これもまたヒーローとしてのカタルシスである。
 SWの影響で知られていないものとしては、番組のタイトルロゴがある。筆者がガンダム当時、関係者から聞いた話をもとに説明する。富野監督は作品の細部にまでイメージをこだわる作家で、ガンダムのGが目立つロゴタイプも富野原案らしい。年長向け作品としてサントラが出るならばジャケットはSWみたいに黒地に白抜きでGロゴを使った大人向きのものにしよう、そのために考えたデザインだというのだ。ところが最初のサントラのジャケットはセル画の子供っぽいものになってしまった。富野監督はクレームをあげ、レコード会社もこれではいけないと反省、セカンドアルバム「戦場で」は安彦良和イラストのジャケットにした。これが大ヒットとなり、「ジャケットは単なる包装ではない、作品の一部なんだ」と関係者に認識させ、以後の流れを変えてしまったのである。間接的とはいえ、SWのインパクトであろう。

◇影響度ざまざま◇

 SWの冒頭、画面上方を覆い隠すようにしながらフレームインしてくるスターデストロイヤーの構図は、ひときわインパクトが強いものだった。宇宙船の描き方を一変させたと言って良いだろう。あまりに日本で類似の映像が多く流れたため、宮崎駿もどこかの雑誌に苦言を呈していたはずだ。SW直後、宮崎の担当作品(画面構成)「赤毛のアン」オープニングでは、冒頭に馬車が上空からフレームインしてくるカットがある。これに宮崎が皮肉として「馬の腹が延々と流れる」という演出を提案した、という噂があった。「アン」の高畑監督による「じゃりン子チエ(劇場版)」の冒頭にも、「巨大なゲタ」が上空からズゴゴゴとフレームインするショットがある。どうせフレームインするならこれだよ、という皮肉の発想が高畑・宮崎コンビらしい。
 SWの影響で蔓延した舞台設定には「様々なエイリアンのたむろする酒場」がある。実例は枚挙にいとまがないが、「銀河鉄道999(劇場版)」の美女リューズが弾き語りをする大人のムードでまとめたものや、「レンズマン」のようにディスコでフィーバー(死語)にまとめたものなど、日本流アレンジもさまざまだった。
 SW2作目「帝国の逆襲」は80年の公開。「伝説巨神イデオン」放映のころである。SW2最大の話題は「ダースベイダーはルークの父」というドンデン返しだった。あまりに日本的ウェットな展開に、当時のファンは驚きを隠せなかった。
 ここで妙な符合がある。ダースベイダーは「ドクロ」をモチーフにしたデザインである。もともとSWが企画されたときには、過去のSF映画が多数参考にされ、その中には日本の特撮キャラクターものも含まれていた。「ダースベイダー」のモデルにも諸説あるが、「変身忍者嵐」に登場した血車魔神斎ではないか、というのが有力だ。石ノ森章太郎によるコミック版では「魔神斎は嵐の父だった」という設定があるというところまで押さえて語るのが、この噂話を口伝するときのポイントである。
 81年の「最強ロボ ダイオージャ」は、もともと水戸黄門を原典とする出発点からしてハイブリッド感覚あふれる作品だったが、その最終回にはSWキャラにインスパイアされたとおぼしき3大敵メカが登場する(図参照)。だが、このダースベイダーに似たデースバンダー、顔をよく見ると魔神斎に酷似しているのだ。確か片手も鉤爪になってたはずだ。デザイン担当は出渕裕である。
なかなかシャレが効いたゲストキャラだった。
 「帝国の逆襲」以降は、日本のレベルもかなり向上し、SWを凌駕するような映像も多く見られるようになっていく。「地球へ…」や「ヤマトは永遠に」では金田伊功が高速で宇宙要塞の溝を飛行する宇宙戦闘機を描いた。このころは「とにかく溝があったら、まず入ってみる」という映像にあふれていた。
 メカや戦闘機の飛行速度や軌跡、物体の壊れるときの破片にまでこだわった板野一郎が「伝説巨神イデオン」や「超時空要塞マクロス」で見せたアニメートは、モーション・コントロール映像をスピード感と快感度で超えていた。
「宇宙刑事ギャバン」に始まる宇宙刑事シリーズの「レーザーブレード」も、渡辺宙明の軽快な音楽に乗せて異空間で光線剣が乱舞するというもので、フィニッシュの切れ味は世界のヒーロー像に新しい1ページを加えたといっても過言ではない。いつしか日本のアニメや特撮は、SWの影響を昇華し始めた。

◇スターウオーズの6年◇

 SWの一作目の米国公開された77年、日本では富野アニメ「無敵超人ザンボット3」が放映されていた。三作目「ジェダイの復讐」が公開された83年、どんなアニメがあったか、ご記憶だろうか?
 なんと富野アニメは「聖戦士ダンバイン」だ。俗悪と言われ、玩具主導のロボットが必殺技を連呼するヒーローもの。それに異論を唱える作品が出たら、SW三部作が完結する間にファンタシー世界で人間の情念を描く作品まで行ってしまった。劇画タッチでザンボットを暴れさせていた金田伊功は、「幻魔大戦」で邪念といった抽象的なものをアニメートするにいたっていた。
 この差を振り返って、眩惑感にとらわれないだろうか?
 SWも1作目よりも2作目、3作目と進むにつれてキャラクターの内面を深化させる作風へと変化し、SFX技術は格段に進歩している。だが、あえて言えば改造再生デススターをもう一度破壊させる以上のアイデアは出ていない。
 日本のアニメーションは、星の数ほどの作品が生まれては消えていく中で、技術も進歩し、表現の多様性を獲得していった。その原動力になったのは、前半で述べた「まだ見ぬSW」に対する熱いイメージと、思い入れと、貪欲な研究心だったのではないだろうか。SWの6年を振り返るとき、同時に壮絶な勢いで進化し駆け抜けていった日本の映像クリエイターたちの作品群にも思いをはせていきたいものである。

【初出:「NEWTYPE MK2」(角川書店) 1997年6月発売】

※『スター・ウォーズ』とナカグロ入りが公開用の正しい表記ですが、慣用的にはナカグロなしも許容されているようです。エピソード1公開時に書いたもので、まさか『ガンダムF91』のビーム・シールドが逆流しているとは夢にも思ってませんでした。なお、題名やキャッチ、キャプションの原稿テキストが紛失しているので、いずれキリヌキから復刻して補完します。

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