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2006年11月 7日 (火)

千年女優(別冊宝島)

寄稿題名:千年という時を超えて…女優は自身の人生を反復する

 女性を主人公にしたアニメは多すぎるほどに製作されているが、主演女優に“老婆”を持って来た作品はほとんどないだろう。
 千代子という架空の大女優、その生涯を本人の回想でつづるという形式上、主役は隠遁した老女という形で登場する。だが、心配には及ばない。話はすぐさま女優を目指した少女期へと移り、そこから一大ロマンスが語られ始めるのだから。太平洋戦争へと進み思想統制がされていた時代の日本。女学生だった千代子は、運命の男性――“鍵の君”と出逢い、別れる。何の手がかりも持たぬ千代子は、映画女優になることで再会への“鍵”を握ろうとするのだが……。
 面白くなるのはそれ以後だ。あるタイミングをきっかけに、画面は千代子の「記憶」なのか、出演した「映画」のストーリーなのか、境目が曖昧になっていく。「虚実混淆」は過去何度となく繰り返されてきたモチーフだが、本作ではアニメーションならではのつなぎの技法が巧みでジャンプする感覚が実に刺激的、飛躍の混乱が快感に変わっていく。
 荒野を走る満州鉄道、火に包まれて落城間近い天守閣、地球滅亡を救うための宇宙船と、舞台や時間は何の関連もなく物語の進行とともにぶっとんでいく。だが、これだけ飛躍しているのに、画面にぐいぐい引きつけられるものがある。それは、ひたすら追い続ける千代子の“想い”が時空を超えてシームレスにつながっているからだ。しかも、随所に妙な繰り返しも多く、夢を見ているような感覚すら発生する。確かに人間の持つ記憶とは棒つなぎに構成されているわけではなく、印象深い瞬間と瞬間を飛躍してつないだ、この映画のようになっている。記憶の中で繰り返し思い出す愛おしい時間だけが、やがて自分の“人生”として醸成されていく……。
 千年という時をかける女優……その物語は、波瀾万丈の冒険の果てに、ちょっぴりマジメな考察もさせてくれるだろう。

【初出:別冊宝島 2004年1月脱稿】

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