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2006年11月23日 (木)

セルアニメ、デジタル進化の系譜

※1999年ごろ=「セルアニメの末期」時期の原稿のため、最新状況などとは異なり、用語も一部違っている部分があると思います。あくまで「当時の情報」として再掲します。

◆アニメはそもそもデジタルなのだ

 まず確認しておきたい事実がある。それは「セルアニメーション」という表現自体が、本質的には「デジタルな」表現様式であるということだ。
 映画が現実に存在する物体の三次元空間と質感とアクションを実体として撮影するのに対し、アニメーションはそれを「絵」によって模擬しようとする。三次元空間は、二次元の透明なセルの重なりとして置きかえられる。質感は、ベタな絵の具数百色の弊領域・平面の組み合わせになる。アクションは、フィルムのコマ単位に時間と空間が分解されて描かれる。
 これらが本質的に「デジタル化」と等価であることは容易に想像できよう。
 セルアニメーションには模擬的なものであるがゆえの限界もある。表現者は常にその限界に悩み、突破しようと模索してきた。好例がマルチプレーン撮影である。セルアニメの平面の限界を超えるために、複数の対象物をやぐらのように立体的に配置して、トラックアップ時に奥行きを感じさせようとする試みである。
 したがって、右図・右表に示すように、アニメに電子的な表現を導入しようとした歴史も意外と古い。アニメ界の老舗タツノコプロなどは、かなり以前から実写やミニチュアとの合成やストロボ効果、透過光などの特殊撮影、あるいはタッチ・ブラシなどの特殊なテクスチャ仕上げといった手法でセルアニメの限界を超えようと実験していたのである。

◆デジタルによってアニメ表現は変わるか

 単純な帰還回路による初期の電子変形(スキャニメイト)から、コンピュータの導入にいたったのが、第二のデジタル化ショック。機械の演算によって初めて可能になった表現とは、上述のセルアニメの限界突破だった。すなわち、手描きでは困難な三次元の回り込み、1コマ撮影によるフルモーション、ライトアップによる微妙な質感表現、複雑な形状の変形などが選ばれていた。それらと平行して単純な省力化であるデジタルペイントの模索があったことは興味深い。
 1980年代前半にすでにメジャーな方向性は出ていた。これに「従来の撮影台の限界突破」「デジタルの質感を表現として利用」を加えたあたりが、現在の方向性の中心だろう。
 近年ではコンピュータのダウンサイジング、コストパフォーマンスの向上、ネットワークによる統合が急速に進んでいる。フルデジタル化への環境が整った上に、セルの生産中止、テレビ局へのデジタルビデオによる納品の促進など、デジタル化はもはや業界の潮流となってきている。機械出力ゆえにセルアニメと融合せず、いびつなものにもなりがち、という問題も解決しつつある。
 生活全体にデジタルが浸透している以上、デジタルでの表現そのものがデジタル世代の観客の生理とマッチするということもあるかもしれない。
 一方では、デジタルで何でもできるようになったという錯覚により、疲労を呼ぶ映像も増加しつつある。例えばフォロー・パンで済みそうなショットなのに、わざわざ画面全体をグルグルと回してみたり、必要以上にテクスチャを複雑にして視線を散漫にしてみたり、ショットの切り返しがつながらなかったり。映画の基本を無視した落ちつかない映像も、増加している。
 デジタル技術そのものは何もしてくれない。今いちど映画の原点、アニメの原点に戻り、「表現したいこと」を視座に据えた上でデジタルの適切な使い方を考える時期ではないだろうか。

▼年表---------------------------------

主要作品年表
Histry of Digital Animation in Japan

●1975年
『宇宙の騎士テッカマン』
オープニングでキャラクターが幾何学模様に変形したり、宇宙船が飛行するシーンを拡大・縮小するのを、コンピュータ演算ではなく、ビデオ信号を応用した電子機器で表現した。これらの表現方法は、同年『タイムボカン』のタイムトラベルのシーンに応用される。

●1983年
『ゴルゴ13』
ディズニー映画『トロン』の影響で生まれた、邦画で初めてCGを売りにした劇場公開アニメ。大阪大学の協力で、大型コンピュータを使用してビルの谷間を3Dヘリコプターが飛翔するクライマックスが描かれた。

●1984年
『SF新世紀レンズマン』
CG空間とセルアニメを合成したり、敵側の有機的なメカの質感をレンダリングで表現するなど、本格的にアニメにCGが組みこまれた作品。同じ流れで製作された『小鹿物語』は、デジタルペイントの実験作。

●1987年
『王立宇宙軍 オネアミスの翼』
アンテナが突き出た人工衛星が回転するシーンなど、人間の手で描くのに無理がある動きをコンピュータに計算させて、プリンタの出力からセル画に起こす方法がとられた。

●1988年
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』
円筒形のスペースコロニーが回転するシーンで、それまでの無機的なCGの質感ではなく、背景美術のテクスチャを貼りこんで、セルアニメ部分との違和感を低減させる手法が登場した。

●1989年
『機動警察パトレイバー 劇場版』
リアルな「コンピュータ犯罪」というテーマに挑んだ作品。HOSというオペレーティング・システムの起動画面がCGで描かれ、現実のパソコン通信にそれを模したフリーソフトが流通した。同年のテレビ版ではポリゴンCGで描かれたイングラムが回り込むアバンタイトルもついた。

●1992年
『機動警察パトレイバー2』
それまでのアニメは、CGによる映像表現を追求していた。しかし、この映画では「登場人物がCGと思って見ているモニタ画像をデジタルで描く」という新しい発想が生まれた。

●1994年
『MACROS PLUS』
従来の撮影台では困難なモブシーンの重ねや、レンズを通したときの歪みなどをデジタル技術で描き出した。

●1995年
『闇夜の時代劇』
サンライズ制作による実験作。深夜枠で放映された10分程度の連作短編で、富野由悠季、高橋良輔、今西隆志らベテラン監督がフルデジタルのアニメに挑戦。和紙のテクスチャと筆のイラストを動かすといった試みがされた。

●1996年
『MEMORIES』
大友克洋の総指揮によるオムニバス形式の劇場公開作品。大友自身が監督した第3話「大砲の街」では、作品全体を1シーン1カットで描くためにCGを駆使して、背景のつなぎの部分をデジタル処理した。

『天空のエスカフローネ』
波紋効果や変形、逆光効果、モーフィングや複雑なレイヤ合成など、ローエンドなCG技術でも可能な表現を多用することで、独特の効果をあげた。

●1997年
『もののけ姫』
タタリ神の触手が複雑にからみあうショット、馬の上から主観的に画面奥へ進むショットなど、宮崎駿監督が従来の撮影技法ではできなかった複雑な動きやカメラワークをCGで可能にした。その成果はスタジオジブリの次回作『となりの山田くん』で活かされるという。

●1998年
『青の6号』
デジタルペイントとLightWave3Dを駆使しフルデジタルで制作された、前田真宏監督によるビデオアニメ。3Dポリゴンで作られたメカと、従来のセルの延長にある2Dキャラクターを融合させようとした、新たな試みで注目されている。

▼マトリックス------------------------

デジタル3D演算

●三次元回り込み
平面で構成されるアニメにおいて、生身のアニメーターが立体物を正確に回したり、カメラの方が対象を回り込むのを手書きで描くのは、とても困難である。コンピュータにより、複雑な位置関係のオブジェクトが一斉に視点を移動しても無理なく描けるようになった。ただし、二次元のセル画空間とのマッチングには、まだ課題が残っている。

●セミCGアニメート
無理して全画面をコンピュータで描く必要はない。人間では、計算の苦手なフォルムの推移だけわかれば充分だ。動画以後の作業は普通のセルワークにする。この考えを使っている代表が『王立宇宙軍 オネアミスの翼』『南海奇皇(ネオランガ)』だ。

デジタルペイント

●セル画ペイントの代替
アニメーションの基本となるセルは、原材料が枯渇しつつあり、ペインターの人件費も削減対象となりつつある。そこでデジタル技術を使用してペイントし、直接ビデオへ出力することが主流になりつつある。色彩の抜けの良さを活かし、東映アニメーションの『夢のクレヨン王国』のように、パステルカラーで構成されるアニメも出現している。

デジタルによるカラーリング(彩色)には、効率化と質感の違和感克服という、2種類のメリットがある。後者が行きついた先が、テクスチャーマッピングだ。

デジタル・テクスチャー

●テクスチャーマッピング
3DCGでは、質感が問題になる。光源をしっかり取って物体を演算で描くと、どうしても無機質になりがちだ。特にアニメの建造物は背景として絵画的に描かれるため、それをCGにすると浮いてしまいがちだ。その解決として、背景をスキャナで取りこみ、テクスチャとして表面にマッピングする技術が使われる。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』や『攻殻機動隊』では自然な形でこれが使われていた。

デジタル変形

●変形・拡大・縮小
アニメの絵を自在に変形させようという欲望は昔からある。そこに機械的な演算を持ちこんで電子機器の歪みで変形アニメ表現の幅を広げようとしたのがタツノコプロの『宇宙の騎士テッカマン』『タイムボカン』だった。

●モーフィング
ビデオクリップなどで大流行した技術だ。2枚の絵をコンピュータの演算で補完し、スムースに変形させる。サンライズの『勇者王ガオガイガー』『天空のエスカフローネ』などの作品に多用されている。

デジタル撮影台

●光学カメラの限界突破
映画は100年以上前に開発された技術だ。俗称「シャシン」というように、光学的なカメラによる写真を連続して撮影して成立する。アニメーションは、さらに平面に描かれたものをコマ撮影するために専用の撮影台を必要とする。それにはさまざまな制約がある。
例えば、いっぺんに移動できるオブジェクトの数と方向は定められている。手前の対象にズームアップしながら、後ろはトラックバックするという複合動作はできない。また、重ねられるセルの枚数にも限りがある。こういった限界をデジタルの技術で突破しようという考えは、『攻殻機動隊』や『新世紀エヴァンゲリオン』(劇場版)によく現れている。

押井守監督の『攻殻機動隊』では、香港の街並みで漢字テクスチャーマップした看板を多層に重ねて極めてゆっくり動かすという、今までのアニメ技術ではできそうでいて、できなかった映像を出している。

【初出:雑誌FLICKER 1999年ごろの原稿】

※最後の方の「マトリックス」とあるのは、デジタル技法を図解的に囲みで図示したもので、残念ながら図そのもののラフは現存していません。

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