ウルトラマン(ケムラー)
毒ガス怪獣ケムラー
『ウルトラマン』第21話「噴煙突破せよ」
ウルトラ怪獣の代表格!
眠い目が魅力の毒ガス怪獣
■怪獣の魅力は、「目」にあり!
ウルトラ怪獣の代表選手というと、レッドキングやバルタン星人を思い浮かべるのではないだろうか。確かに彼らも魅力的だ。だが、ケムラーはある意味では彼らよりも際だってウルトラ怪獣的と言える名怪獣なのである。
大武山(おおむやま)で謎の毒ガスによって被害が出るようになった。科学特捜隊のフジ隊員とホシノ君の調査で、毒ガスは怪獣の仕業とわかる。ケムラーと命名された怪獣と自衛隊の戦い、ケムラーの強さと大暴れが物語の大半で、怪獣としての魅力を存分に見せた一編だった。
ケムラーの魅力は、まず怪獣怪獣したその外見だ。なんと言っても、あの眠い目がたまらない。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の怪獣の大半は、成田亨がデザインし、高山良策が造形を担当していた。二人は彫刻もできる前衛美術家で、そのクオリティは他と一線を画していたのだ。
成田・高山怪獣の魅力は、まず何と言っても活きいきとした「目」にある。他の作品の怪獣では、たまにピンポン玉に黒丸みたいな目で、まばたきが出来ずに電飾を点滅させる怪獣がいる。これではシラけてしまう。
ケムラーの目は、ウルトラ怪獣中でもっとも生物感の魅力にあふれていた。顔の造作がカエルを思わせるようにツルンとした中で目が前面に出ているだけに、いっそうその「眠そうな目」の印象を強くしていた。
目の下に何段にも刻まれたシワ。目は瞳と虹彩が塗り分けられ、ほんのりと電飾で光っている。うっすらと瞼が瞳の上片をおおいかくすようにそっと覆って、「眠い」印象をもたらしている。瞼にはギミックが仕込まれ、開閉するようになっていて、「オレは生きてるんだ!」という演技ができるようになっているのだ。
放映当時、週刊少年マガジンの表紙を飾ったウルトラマンの怪獣中でも、ケムラーは格別な印象を残している。それは、雑誌の表紙で私たち読者をにらみつけていた目の印象と鋭い主張によるものだ。
それがどれだけ強いかは、「究極超人あ~る」(ゆうきまさみ作)によく描かれている。主人公あ~るが、両手を目にあてて「ケムラーの目!」という宴会芸のようなネタをするのだ。実に共感あふれる名場面だった。
■怪獣は生きるために武装する
もうひとつ。ケムラーがウルトラ怪獣の代表選手だという理由を説明しておこう。
先に挙げた怪獣・宇宙人のデザイン担当の成田亨は、ウルトラ怪獣を創造するにあたっていくつか自らに約束ごとをした。特に印象的なのは、「巨大生物」や「お化け」との差別化を明確に理論づけたことだ。それは、「怪獣」という特別な生き物を定義する根幹、日本の怪獣文化の基礎になっていると、私は思う。
「巨大生物」は、単にいまいる生物が大きくなっただけだ。だから、「怪獣」という新たな定義で呼ばれるものではない。オケラが大きくなったら、「怪獣オケラゴン」ではなくただの「巨大オケラ」なわけだ。「お化け」は身体の一部を破壊して登場する。だが、怪獣はそうではない。
怪獣が特殊な器官を持っているのは、それは彼らなりに生きるための道具なのだ、と成田は規定した。
ケムラーはこの点でも実によくできた怪獣である。「毒ガス怪獣」という、6文字で非常によくわかる特徴をもった生き物。口の中がフラッシュのように光った後、ケムラーは轟然と毒ガスを吐き出す。それはもう豪快なくらいにゴウゴウとガスを吐く。やっぱり怪獣はその武器をアピールしてナンボの生き物だと痛感する。
ケムラーの尻尾は、独立した器官になっている。そこから航空機すら落とす怪光線を発射可能で、まるで『ウルトラQ』のゴーガみたいな別の怪獣のようだ。
ディテールを挙げればキリがない。カエル的印象を強くする耳のくぼみ、鮮やかに赤くなまめかしく光る唇、レッドキング風段々になった腹部など、もうこれがウルトラ怪獣でなくて何なんだ、というくらいの魅力炸裂だ。
ケムラーの背中には、二枚の羽根のような甲羅がついている。自在に開閉する。開いた内側にはネイティブ・アメリカンの装飾のような鮮やかな色が塗り分けられていて、これまた生物の神秘という印象だ。開閉する理由は、そこに光って明滅するケムラーの弱点があって保護するためだ。甲羅はウルトラマンのスペシウム光線ですら防御してしまう。ケムラーはウルトラマンにすら勝ったと言える。
ケムラーの生物としての武装は、そこまで強くてカッコ良いのだ。
ウルトラマンは作戦を変更し、甲羅を持ち上げ弱点を露出させる役に徹する。とどめを刺すのは科学特捜隊のマッド・バズーカ、人間の科学の勝利だ。
やられた後の行動も、ケムラーは普通ではない。死に場所を求めていくのだ。
死期を悟ったケムラーは、自分の故郷の死火山に這いずるように動いていく。そして火口に身を投げ、自分を産んだ地球にその生命を還すのである。なんと感動的な最期!
明らかに人間社会と隔絶した「怪獣の世界」をケムラーは背負って登場した。そして、彼は最期まで「怪獣らしさ」を貫いたのである。
こんな怪獣、なかなかいないでしょ? だからこそ、ケムラーはウルトラ怪獣の代表選手と断言できるのである。
【初出:「ザ・怪獣魂2」(双葉社) 脱稿1999.12.10】
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