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2006年11月17日 (金)

装甲騎兵ボトムズ

 1980年代前半、「ガンダム」に影響された作品が流行する中で、ひときわ異彩を放ったカルトなロボットアニメがあった。「ロボットを戦争のための兵器として描く」。ガンダムが提唱した概念を極限まで追求し、徹底してハードボイルドタッチに仕上げた「装甲騎兵ボトムズ」。究極のリアルロボットアニメだ。
 「ボトムズ」とは主役ロボットのことですらない。タイトルロール不在、すなわちヒーロー否定ということだろう。代わってAT(アーマード・トルーパー)という呼び名が使われている。アストラギウス銀河の二大勢力が、理由も定かでない星間戦争を続けて百年。長きにわたり大量に投入された4メートル前後の二脚歩行ワンマンタンク。この世界でもっともありふれた兵器。それがATだ。
戦争の長期化で人心はすさみ、街角にあふれたATパイロットは「最低の野郎」という意味をこめ「ボトムズ乗り」という俗称で呼ばれている。これがタイトルの由来だ。何と乾いた響きではないか。
 主人公キリコも、決まった主役メカに乗らない。部品を集めて一体のATを作り上げたり、敵から奪ったりして次々に乗り換えていく。この世界では、ロボットはバイクや自動車のように量産された兵器なのだから当然だ。
破損を愛ければ動作不良を起こし、戦闘のためには整備も必要だ。鋼鉄の厚みを感じさせる大河原邦男のメカデザインも、オイルの臭いあふれる描写にぴったりだった。キリコは終始寡黙だ。誰にも屈服せず超人的な行動力と判断力で危険を克服していく。着々とミッションを遂行するキリコのクールさも、この作品の魅力のひとつだ。
 周囲をハードな世界観で固め、主人公を徹底してドライに描く。そうすることで、物語で一番大切なものが逆照射され、浮き彫りになる。大切なものとは、キリコとヒロイン・フィアナの愛だ。二人の出会いもまた尋常ではない。第1話の冒頭、キリコは偶然にも軍の最高機密を見てしまう。実験カプセルの中でキリコをじっと見つめる裸の女…。それが戦闘用に強化されたパーフェクトソルジャー、フィアナの誕生であり、運命の出会いだった。
 このシチュエーション、実は「眠れる森の美女」の相似形なのだ。
 武器のトリガを引けば死体の山が築かれる。殺伐として渋いボトムズワールドは、実は高橋両輔監督が巧妙に仕組んだ撒き餌だ。本音は、テレビシリーズ最後でキリコが遍歴の果てに勝ち取るフィアナとの愛、甘い甘いおとぎばなしの方なのだ。その証拠が「眠れる森の美女」というわけだ。
 普通はエサの方が甘いのにヘンだね、と言いつつ、最後の一握りの甘さを味わうまで、渋い渋いボトムズ世界を噛み分け舌で転がすのは、これもまた至上の快楽なのである。ためしに口に入れてみてはいかがだろうか?
【初出:SFアニメがおもしろい(アスペクト) 1997年1月】

※DVD-BOXの新品は品切れのようですが、バラでも出ています。

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