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2006年11月 7日 (火)

ダーティペア

題名:命の危機よりまずデート!
  ダーティペア第5話「クリアドスのどっくんどっくん!」

●アニメ化されたダーティペア

 何か一本から魅力を探っていくこのコーナー。今回はヒロイン二人の活劇ということで後年への影響も強い『ダーティペア』を取り上げてみよう。
──銀河系全体に広く人類が進出した時代。星系間で起こるさまざまな事件を解決するため、世界福祉事業協会WWWA(スリーダブリューエイ)が組織された。そのトラブル・コンサルタント、ケイとユリのコードネームは“ラブリー・エンジェル”。……だが、ちまたでは誰もその名で呼ぶ者はいない。
 ケイとユリは優秀で、解決の確率は高い。だが、彼女たちが動けば、必ず事件は意図せずして予期せぬ方向へと進む。そして、恐ろしいカタストロフが待ち受けているのだ。だから、決まって呼ばれる悪名は“ダーティペア”。その名にもめげず、今日も二人の活動は続く……。
 原作小説は高千穂遙が『クラッシャージョウ』に続いて発表したスペースオペラだ。毎回事件や無理難題が二人のもとへ舞い込み、その解決プロセスがストーリーを転がしていくのが基本的な枠組みとなって、アニメにも踏襲されている。
 テレビ放映にあたっては、いくつか変更が加えられている。まずキャラクターデザインは『うる星やつら』等の人気アニメーター土器手司、コスチュームデザインは『GU-GUガンモ』等の漫画家、細野不二彦。お供のムギ(『宇宙船ビーグル号』に登場する架空の生物クァール)は精悍な黒豹っぽいイメージからフレンドリーなデブ猫に変更。スニーカーを履いたナンモも、テレビ用オリジナルのペットロボットとして追加された。ブラディカード等の血なまぐさい武器もなくなり、惑星壊滅といった大規模災害によるオチも抑制され、一種の「お茶の間モード」への変換がかけられている。

●ユリとケイの凸凹コンビ

 アニメ化の魅力は生の声でしゃべること。ケイは頓宮恭子、ユリは島津冴子と絶妙なキャスティングによるダーティペア(以後便宜上、悪名の方で呼ぶ)の会話は、それだけでも楽しいものだ。その反面、内容は辛辣だったり、任務遂行のためには周囲を巻き込んで被害を拡大させるようなところは、原作の持つ乾いた毒気を継承したようなところがあった。
 ショートカットとロングヘアのメリハリの効いた女性コンビのお色気アクションというキャラクター造型は、いわば「ダーティペアもの」とでも呼ぶべき定番の後継を、やがてたくさん産んでいくことになる。
 テレビ版の監督は、『THE IDEON 発動編』や『装甲騎兵ボトムズ』などでハードなアクション映像を見せてくれた滝沢敏文。初期数話は正直ちょっとノリをつかみ損ねているようなところがあった。「う~ん、こんなもんかな」と思っていた矢先に、出会ったのが、今回取り上げる第5話「クリアドスのどっくんどっくん!」(脚本/島田満、演出/加瀬充子)である。

●襲撃者に対応、アクションの前半戦

 まず、この回のサブタイトルはヘンである。なんだか微妙に語感が淫猥だ。考えすぎかもしれないと思ったら、2文字くらい伏せ字にしてみると、言いがかりではないことがわかるだろう(笑)。
 サブタイトルって大事。このイレギュラー感が、最後まで観客を引っ張るテンションの最初のトリガーになっている。実際、この回はイレギュラーだらけだ。まず、今回の発端は事件ありきではなく、ケイが引っかけた若い男の子と、“カフェ・フラミンゴの七番テーブルでデート”しにいくところから始まる。乗り込む宇宙船は任務用のラブリー・エンジェル号ではなく、レンタルシップ、コスチュームもトラコンの制服ではなく私服で、ムギも今回は不在だ。
 ユリは、無重力で文字どおり浮かれまくっているケイが面白くなくて、ちょっと重力をかけて意地悪をする。そのとき、突然ワープアウトし、悪意を放ちながらすれ違う謎の物体があった……飲み物をこぼし、服が汚れたというだけの理由でケイは寄港し、ホテルでシャワーを浴びて着替えようとする。この牽強付会な態度もすごいが、身分証を見せただけでうろたえる入国審査官というギャグもお約束ながらツカミとして嬉しい。
 だが、ここから今回の惨劇の幕があがる。町に出たユリは、先の殺意のビジョンを覚える。一方、ホテルに残ったケイの方は、これもお約束の「シャワーで鼻歌」をやった直後、パンティとブラをつけた瞬間に殺人マシーンに襲撃され、裸同然のまま反撃に移る。
 ここでともかく目の前の襲撃者に反撃に出るところが痺れる。周囲の迷惑を顧みず相手を倒そうとミッションに集中、救急車が走り回り被害が拡大する中で、道行くパトカーを奪取して襲撃者に反撃へと転じる手際の鮮やかさが、プロ意識的なものを強く感じさせ、カタルシスがあって良い。
 ユリの方にも無人戦闘機がレーザーで襲撃を仕掛けるが、ねらいを巧みに外しながら誘導するような攻撃が、さらなる大きなたくらみ、悪意の存在を予感させて、不安をかきたてる。いったいこの襲撃者の正体は……というヒキは、シリーズの1本というよりは、まるでスペシャルか映画のようで、実に緊迫する。

●にじみ出る悪意の正体、後半戦

 こういった派手なアクションに満ち満ちた前半に対して、後半は拉致された二人が、ゆったりと不気味さを保ち続ける悪意の本体に連行される静かなサスペンスが描かれて、好対照である。
 実は襲撃者の本体とは……放射性廃棄物や有害物質を滅却する処理施設だった。これを産み出した科学者クリアドスは、すでに一年半前に自殺。その後、事故が相次いだためにこの施設も破棄されたはずだった。だが、常用していた幻覚剤のルートを断たれ、摘発にあたったダーティペアを恨みに思ったクリアドスは、自ら死した後も彼女たちを襲撃するよう施設をプログラムしていたのだ。
 収容された二人は中枢部へと招かれる。宇宙船は小型戦闘機によって圧壊され、死が迫ろうとしていた……。
 ここで良いのは、クリアドスの顔も言葉も、意味あるものは一切が登場しないことだ。凡庸な作品だったら、ここでクリアドスの遺志(ホログラフとか声とか)とダーティペアを会話させ、対決を見せてしまうだろう。だが、クリアドスは彼女たちが死ぬことしか望んでいないし、犯人は死んでいるから翻意などはあり得ない。悪意とは、そのような解決の出口がないがゆえに悪意たり得るのだ。
 こういう視座、認識が、ドライでハードなSF風味を出して良い感じである。その恐怖と、女性二人の軽い会話のかけあいが同居しているのも魅力的だ。
 攻撃を受けたケイが漂流する中、ユリは心配して泣きそうな声をかける。そのときには反応しなかったくせに、「あ、いい男!」というと目を覚ましたりして……。こういう絶妙なるはずし方が、逆に場を盛り上げるスパイスになっている。

●緊迫感と女の子らしさが同居

 この極限状況で打つ起死回生の反撃も、ぎりぎりまであきらめない気持ちの中、その手があったかというもので、思わずヒザを打つ。
 ともかくこの回は、あまりに展開が早すぎるため、前後編かと思ってしまうほど凝縮された緊迫感のあるエピソードの流れに巻き込まれ、本放送では「この先どうなる?」感に画面の中へのめり込んでしまったことをよく記憶している。
──で、ここが最大のポイントなのだが、事件が解決した直後、ケイはふと我に返って“やっぱりデート”とユリを置き去りにして飛び出してしまうのであった。これにはひっくり返った。
 襲撃者、生命のピンチ、実体のない殺意といったハードきわまりないサスペンスと「でもすてきな男の子と早く会いたい」というソフトな女の子らしさが同居して同列に並び、ひとつになって描かれている──ああ、それがこのアニメの楽しいところなんだ、とわかってシリーズ全体が好きになるきっかけをつくってくれたラストシーンであった。
 ということで、今回のお勧めはこの一本。では、また。

●Check Point!

(1)女性らしい宇宙船内の過ごし方
コクピットで二人の女性はファッション雑誌を読み、音楽を大ボリュームで聴いて踊る。この光景には、宇宙=SF=マジメという図式を覆すものがあった。ケイの聞くCDのケースに注目。放映時はちょうどCD出始めの頃で、こういうケースに入っていたのだ。

(2)裸一貫で、トラブルに対処
殺人マシーンに襲撃されたケイは、裸同然のまま反撃に移る。女の子モードから一瞬にしてプロフェッショナルな戦闘モードになる切り替えが小気味良い。素っ裸に近い姿でアクションをしたため、太股に血がにじんだりするのも、痛々しくてリアルだ。

(3)逆転の鍵はナンモにあり
“虚無の墓場”と異名をとるクリアドス。妄執がメカに憑依して、というのも古典的だが、ケイとユリの対処は冷静だ。そっと自分のメモリーを差し出すナンモ……口がきけない分、この所作にけなげさを感じてぐっと来るし、クリアドスとの好対照も描かれている。

●放映データ
期間:1985年7月15日~1985年12月26日/日本テレビ系放映(全24話)/原作:高千穂遙/キャラクターデザイン:土器手司/メカニックデザイン:阿久津潤一(スタジオぬえ)/コスチュームデザイン:細野不二彦/監督:滝沢敏文、鹿島典夫(14話~)■声の出演:ケイ(頓宮恭子)ユリ(島津 冴子)

【初出:サンライズエイジ(芸文社)脱稿:2003.03.30】

※「氷川竜介のサンライズ一本勝負!」という題名の連載企画、第1回目でした。雑誌のVol.2が現在まで出てませんので、これのみです。『ダーティペア』が廉価でDVD-BOX化されるのを記念して再掲ということで。「サンライズエイジ」はマーケットプレイスなら入手可のようで、割といい値段がついてますね。

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