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2006年11月 9日 (木)

海のトリトン

寄稿題名:緑の髪の少年は、イルカに乗って大海原へ…
       アニメブームの原点中の原点

 『海のトリトン」は、』『機動戦士ガンダム』の富野喜幸(現・由悠季)監督と『宇宙戦艦ヤマト』の西崎義展プロデューサーが手塚治虫の原作をベースに世に送り出したTVアニメである。放映後もトリトンのことを語り続けたいという動きが、若者たちによるアニメファンクラブ結成となり、その動きがやがて70年代後半にヤマト・ガンダムを通じてアニメブームへとつながっていく。
 トリトンは、ポセイドン族の送り込む怪獣や怪人と戦うヒーローだ。しかし、それまでのヒーロー像とはかなり異なっていた。未知の世界へ旅立つことに怖れを持ち、ささいなことで感情を害し、自己中心的な発言をし、時に悩んで落ち込む。初めて知った同族の少女ピピに対してもその心が判らない。こういったトリトンの言動は、大人への入り口に立った思春期の本当の姿を映したもので、憂いを含んだ可愛い容姿とともに視聴者の心に深く残ったのである。
 当時こういった思春期特有の振幅の大きな心理をドラマに織り込んで描くことは、まだまだ挑戦的なことであった。劇画タッチで描かれた激しい画面、トリトンの心の揺れ動きと成長のドラマは、いま改めて見ても実に新鮮である。
 現在のアニメのひとつのルーツがここにある。君もトリトンといっしょに旅に出てみないか!

《キャプション類》
◆トリトンとピピは最初はお互いの考え方を認められず、激しくぶつかり合う。思春期の男女ならば直面する対立をリアルに描写していた。

◆ポセイドン族は巨大な怪獣や半獣半人の幹部たちなどを次々と送り込み、トリトンを抹殺しようとする。海中の戦いは、ファンタジックな美しさを見せてくれる。

◆海に向かって旅立つトリトンの姿は思春期の少年少女にときめきを与えてくれた。

◆トリトンは、戦いの中で障害にぶつかり、そのたび激しく悩む。それは自分中心に生きてきた少年少女たちが、大きな動きと流れをもった社会を垣間見たときにぶつかり、感じるものと同じであった。憂いを含んだトリトンの表情は多くのひとの心を動かしていった。

◆緑の髪を持つ少年トリトンは、13歳になったとき白いイルカのルカーによって、海没したアトランティス大陸のトリトン族の末裔であることを知らされる。トリトンはオリハルコンの短剣を手に続々と襲い来るポセイドン族と闘う。そしてもうひとりのトリトン族の生き残り、少女ピピと出会ったことで彼の運命はさらに大きく動いていく……。

◆海グモの牢獄に閉じ込められていたヘプタポーダは、ひたすら海の上の世界が見たいという願いに突き動かされてトリトンと戦った。だが、憧れの海上にあった激しい光は彼女を拒絶する(第20話)。引き裂かれた悲劇のヒロインとしてトリトンを代表するゲストキャラクターだ。

◆トリトン抹殺を指令するポセイドン像。当時ブーム絶頂だった仮面ライダーの影響で、子ども番組の悪の首領は正体不明のものが幹部を操るのがパターンとなっていた。トリトンと海の生物たちを苦しめる悪と思われていたこの神像は、最終回で大きな逆転劇を見せることになる。

■原作/手塚治虫■プロデューサー/西崎義展■演出/富野喜幸■作画監督/羽根章悦■美術監督/伊藤主計、牧野光成■音楽/鈴木宏昌■制作/朝日放送、アニメーションスタッフルーム
■トリトン/塩屋翼■ピピ/広川あけみ■ルカー/北浜晴子■ポセイドン/北川国彦
■1972年4月1日~9月30日ABC系放映

【初出:月刊アニメージュ(徳間書店)2001年10月号】

※DVD-BOX(現在入手難)が出たときの紹介記事です。雑誌なので写真にキャプションをつけて読ませるスタイルになっています。その後、劇場版のDVDも出ましたが、これは再編集の方法がだいぶ粗いものです。

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