2001年春の新番組
題名:新世紀ワンダー映像アニメの鑑賞ポイントと期待感
「21世紀」という呼び方にも少しだけ馴染みの出てきたこの春。文字通り「新世紀のアニメ」が発進した。今回の特集で取り上げられたこの3本は、過去さまざまな話題作を発表してきた実力派監督が、いずれも独特の映像感覚を駆使して制作していて、21世紀の幕開けにふさわしい作品群と言える。
●NOIR(ノワール)
『無責任艦長タイラー』『EAT MAN』の真下耕一監督の作品。美少女二人組の主人公は、現実の異国を舞台に淡々と職業としての殺人を請負い遂行する。「フィルム・ノワール」とは、暗黒街を舞台にした戦前の一連のフランス映画などの犯罪映画を現す用語である。この作品の銃撃戦は、一撃必殺となることが多く、派手なアクションよりは、犯罪の現場における駆け引きや緊迫感を主体に描こうとしているようだ。
第1話では、少女・霧香がネクタイを応用して敵を無表情に絞殺してしまうシーンが印象的で、アニメっぽいキャラと無慈悲な殺人行為とのギャップで何かを浮かび上がらせる意欲がうかがえた。今後はどんな舞台やシチュエーションが登場するか、期待できる。エキゾチックさが炸裂する主題歌、シーンを浮き彫りにする連続したBGMと、音楽の使い方も素晴らしく、発砲音も火薬の音の重さと転がる薬莢の金属音がリアルだ。
●ジーンシャフト
『エスカフローネ』の赤根和樹監督の作品で、男女比は男性アニメ・ユーザを意識してか1対9になっているものの、「未来&宇宙」を正面から描いた直球勝負のSFアニメだ。
赤根監督は、テレビ作品にデジタル技術が導入され始めたごく初期から、たくみにCGを使いこなしてきた。そのノウハウを活かしたデジタル映像表現が、多く見受けられる。著名モデラーの竹谷隆之による巨大ロボット「シャフト」は、複雑にパイプが絡みつき、板を重ねて500メートルの巨体を建造物的に構成するという目新しいデザイン感覚だ。構造材が微妙に相対位置を変化させながらゆっくりと起きあがり、マニュピレータの指の一本一本が少しずつズレながら開閉するメカニズム映像は、CGならではの無機質さが映像的驚きに昇華し、かなりのインパクトを持っていた。
ジーン"Gene"とは遺伝子のことで、遺伝子解析と技術応用が毎日のように報道される現代最先端のテーマを扱った作品であり、今後ドラマがどのようにそれを噛み砕き、活かしていくのか楽しみである。
●THE SOUL TAKER~魂狩~
『それゆけ! 宇宙戦艦ヤマモトヨーコ』『新・破裏拳ポリマー』の新房昭之監督の作品。トリッキーな構図を駆使して、欧米のコミックにも通じるまるでカラートーンを貼ったような鮮やかなイラスト的映像が特徴の作品だ。『デビルマン』や『スポーン』のようなダークヒーロー志向か、主人公はクライマックスで悪魔にも見える形に変容する。
第1話は若干詰め込み過ぎか、めまぐるしくポイントの追いづらい構成だったが、第2話では、小技の効いたギャグと力の抜けた舞台設定(江戸村なのだ)で繰り広げられる肉弾アクションが、往年のタツノコアニメの2001年風アレンジを感じさせてくれた。シリアスな物語を引っ張る伊達京介と、脱力した壬生(みぶ)シローの凸凹道中的テイストが前面に出て、ノリが立ち上がってくると、楽しい作品になるのではないだろうか。
あえて言えば、3作品いずれも、キャラクターや世界の「設定」に「謎」を持たせ、小出しにして物語を引っ張ろうとする点、映像構成に重きを置き過ぎるような点が、多少気になった。まず登場人物が言動を通じて興味をわきたたせて、そこに生じる人間同士の葛藤(ドラマ)が牽引力になって欲しい。「設定」や「映像」はドラマを支える黒子のようなもののはずだ。これらが一体となって視聴者の感情をゆさぶったとき、アニメはまた大きく新世紀に羽ばたけるに違いない。
【初出:月刊アニメージュ(徳間書店)2001年6月号 Sence of Wonder特集】
※ごく初期の第1~2話あたりの時期に書いたレビューです。うち2本はバンダイチャンネルでもレビューを書いてます。
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