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2006年11月 3日 (金)

大空魔竜ガイキング

題名:『大空魔竜ガイキング』 お得パッケージVOL.6をお勧め!

 1976年のロボットアニメ『大空魔竜ガイキング』のLDは、なぜかBOXではなく8話収録の二枚組みを基本としている。最終巻のVOL.6のみ4話収録だが、これは異様に効率の良いお楽しみパッケージだ。
 「ガイキング」と言えば、アクション派アニメーター金田伊功が初めて作画監督をして注目された作品である。第34話「猛烈!火車カッター」と最終回の第44話「壮烈!地球大決戦」の2本がソレである。このVOL.6では、第44話が見られるのはもちろん、2本の間にあたる第41話「ジャイアントカッター逆さ斬り」も収録されている。作画監督は野田卓雄。その分、金田はほとんど全カットの原画を描いている(作監回は、おおむね半パートの原画担当)。金田濃度とテンションが異様に高い割りに、意外に知名度が低い回なのだ。
 ハチローは、近所の悪ガキたちとケンカをしている最中に、暗黒ホラー軍団のメカを発見。子供たちは全員、拉致されてしまう。ハチローが大空魔竜の乗組員と知ったデスクロス騎士団スネイカーは、ほかの子供たちの命と引き換えに小型化した暗黒怪獣キングコブラを持ち込むようハチローに命じる。光子エネルギーを吸いとり、キングコブラは大空魔竜の腹を食い破って巨大化した……。
 ストーリー的には主人公側がよく使う「一寸法師作戦」の変形だ。「外側の攻撃にはいくら強くとも内側から攻撃すれば」という『スターウォーズ』でもやっていたアレである。ということで、話としては実にどうということはないのだが、メカアクションで語られることの多い金田作画の別の側面が堪能できるのがこの回の醍醐味だ。
 ハチローと悪ガキの少年の描写が金田の好きだった『ど根性ガエル』的な作画で、実に見ていて楽しそうで小気味良い。子供ならではの細かいリアクションを、ややオーバー気味にひろっており、銃を付きつけられたときの驚き、板ばさみにあって苦悩するハチローなど、表情も感情こもりまくり。もちろんパースも豪快につけられている。ハチローがコブラの入った箱を捨てようとするところなどは、表情と動きのタメの豪快が後の『サイボーグ009(新)』オープニングの岩を持ち上げる005みたいで、パワフルさに目を見はる。
 余談だが『戦え!イクサー1』『冥王計画ゼオライマー』の平野敏弘(現:俊貴)監督のアニメーターデビューはこの第42話、ガイキング長セルの清書なのだそうだ。
 第42話「ネス湖の大恐竜」も別の意味で凄い。本来は最終回から三本目のクライマックスのはずで、ブラックホールの影響で滅亡の最終段階となったゼーラ星はもボロボロ。ところが……「そこでダリウス大帝は非常事態を宣言し、打倒大空魔竜を果たすため、ネス湖の恐竜をサイボーグ化して密かにテストを続けていた。その名はネッシーQである!」(ナレーションより)大空魔竜のメンバーも半ば観光気分でネス湖にいってしまうという能天気なストーリー。誰でも「おいおい、それでいいのか」とツッコミたくなる。ちなみに『熱血ロボ ゲキ・ガンガー3』の最終回から3本前が「びっくり!ツチノコ大怪獣」なのは、これにちなんでのことなんだそうだ。
 第43話と第44話は最終回の前後編。しかしつなげて見ると、最終回の金田作画の異常さがやはり突出している。特に暗黒怪獣ドラゴンダーが雷鳴とともに出現するシーンがどちらにもあるのだが、金田の方は稲光が空間を引き裂くように暴れまくり、地面に突き刺さり、巨大な竜の大きさも画面からはみ出すように描いている。なんだかんだ言っても、最終回はやはりVOL.6の白眉だ。
 「ガイキング」は作品全体の統一感などそれほど気にせず、ある程度自由に作ってるところが、逆にいま見ると魅力である。作画ひとつ取っても、いろんなアニメーターの手がけた絵が渾然となっている。虫プロの流れをくむマッドハウスが参加し、杉野昭夫が原作にクレジットされているのは、キャラクター原案を手がけたからだろう(アニメーション・キャラクターは白土武)。杉野はオープニング・エンディングの作画、本編も第11話「泣くなハチロー」第18話「宇宙船ノアの箱舟」と2エピソードの作画監督を手がけている。特に第11話は出崎統の絵コンテによるもので、やたらと画面構成が渋い。サンシローがまるで矢吹丈みたいな表情(目を閉じて口元を曲げるようにして微笑む)をしたりして衝撃的だ。金田作画ももちろん良いのだが、もっと出崎・杉野コンビの「ガイキング」も見てみたかったなあ……。(敬称略)
【初出:不滅のスーパーロボット大全(二見書房)1998年9月) 】

※バラ売りLDの紹介となっていますが、DVDはBOXです。そちらにも解説を提供しています。『大空魔竜ガイキング』は音楽、挿入歌も傑作です。初出誌には故・富沢雅彦氏の傑作評論が掲載されており、BGM集(ANIMEX1200の方)も氏の構成。題名を頭1文字ずつ並べると「大空魔竜飢遺禁紅」になるという凝りようです。

●初出誌

●DVD-BOX

●CD

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