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2006年11月12日 (日)

DVDウルトラシリーズ(Q,マン,セブン)

題名:デジタル・ウルトラシリーズ

●細部が手に取れるような高画質!

 自腹を切っているからはっきり言わせてもらう。DVD化で画質が良くなると思うのは早計である。事実、私は何度かVHSにも劣る商品をつかまされ、泣きながら中古店へLDを買いに走ったことがある。某商品などは暗い、ピンボケ、色にじみ、粒子荒れ、ブロックノイズと、ギャグにしか思えない粗悪品であった。
 そういうときは、この至宝の画質を誇るデジタル・ウルトラシリーズを観て、目と心をを洗うことにしている。まさにDVD時代のスタンダードとなるべき最高峰の画質だ。崩壊寸前のマスターネガを洗浄し1コマずつスキャンして丁寧にデジタルで補正・修復した大変な労作である。
 筆者が画質の優劣を簡単に見分けるときの個人的手段を紹介しよう。まず、ヘルメットの反射など光沢の映りこみを見る。そこで半透明の階調表現がしっかりされていればOKである。続いて緑の再現性を見る。一番良いのは薄い緑である。
 シリーズが最初『ウルトラセブン』から始まったとき、この方法で思わずチェックしてしまった。結果は、「ウルトラにいいでしょう!」。
 セブンの着ぐるみの表現だけで、すでにおつりが来るほど素晴らしいことが判る。まず額のビームランプがエメラルドグリーンなのに狂喜乱舞。冗談ではなく涙が出て来た。そうそう、セブンの額は緑に輝いていたんだ! と。この20年余りはずっと青に表現されて本当の色を忘れかけていた。
 セブンの目も素晴らしい。中心部分の薄い金色と周辺のプラスチックの部分がしっかり分離した色で表現され、電飾のランプがしかるべき位置に輝いているのが見える。
 そして、最大の見どころは「光沢と薄い緑」を兼ね備えた胸のプロテクター部分だ。このくぼみ部分は、工事現場の作業員がつけるような反射材質の夜行塗料のような薄い緑のテープが貼ってある。スチル写真でもよく見ないと判らないこの部分が、家庭のプレイヤーとテレビで再現されたときには、本当にたまげた。静止画にすると、テープがたわんでちょっとはがれかけている状態まで見えてしまう。
 高画質というのは、こういうもののことを言うのだ。

●高画質になって幸せいっぱい

 目から鱗が落ちたような気持ちとはこのこと。初めてメガネをかけて視力が回復したときのことを思い出す。高画質とは幸せのことなのである。その目で改めると、すでに35年もの間見飽きたはずのソフトも、さまざまな驚きに満ちて見えてくる。
 たとえば桜井浩子が『ウルトラマン』出演に際して髪を栗色に染めたということは文献で知ってはいても、そう見えたことがない。ところがこのDVDではそんな文献を読まなくとも最初からその色なのである。
 造形マニアではないにせよ、怪獣のディテール理解が向上すると非常に嬉しく、怪獣ファン冥利につきる部分がある。ウルトラシリーズもフィルム作品だから、怪獣は動きの中で生命を持つものである。その動きの中で怪獣を見つめ直すために、高画質は大きく寄与する。
 たとえばガッツ星人の腰にラメのようなきらめく材質のものが貼り付けてあることの発見だ。確かにスチル写真にもそれは映っているが、動く画面で光を反射してキラキラッとしたときに真価を発揮し、改めて異星人らしさが何倍か増して感じられるものと感じた。同じことはケムール人やバルタン星人の目の複雑な動き(機電)にも感じる。このように、動く映像としての「表現」が向上することがとにかく嬉しい。
 フィルム傷がていねいに修復されているのも特筆もの。特に何本かのフィルムは、LD化のときにずっとネガ傷が入っているのを見て、オリジナルの損壊に未来永劫この傷は消えないのかと心にも傷を受けた思いだったので、それがクリアされたら気持ちも楽になった。
 こうなってくると、修復されたのは物体としての「傷」ではなく「気持ち」だったんだなあ、と思うようになってくる。画質向上で作品そのものの質が上がったかのようにすら思えて来る感慨の根幹には、この「気持ちの問題」があるのだろう。
 もちろん画質が上がりすぎた逆効果もあるにはある。ホリゾントまでの遠近感がわかってセットやミニチュアの大きさが実感できてしまうとか、隊員服やヘルメット、着ぐるみの破損状況がわかってしまうとか、そういう部分もあるのだが、それはまあご愛敬というところだ。
 すでにウルトラシリーズは評価が固まっているということで、あえて作品の中身には触れていないが、一番嬉しいことはこの高画質ソフトから新しい世代のウルトラファンがまた続々と誕生し、様々な新研究や新発見が産まれるであろうことだ。
 たとえば『ウルトラマン』前半は、怪獣にしてもカラーフィルム化を強く意識した色彩設計になっている。黄色や青の原色アクセント、ピンクの唇がその現れだ。これが時間とともにどう変遷していくのか、なんてのも興味津々のテーマだろう。
 商品レベルでも、すでにこのDVDから研究したらしき成果がガシャポン・フィギュア等にフィードバックされ、色味やディテールが正確な商品が登場しているのも嬉しいことだ。
 画質なんか見られればいい、作品は中身が大事という意見もよく聞く。私もそう思ったことがある。しかし、「内容と表現は一体」なのである。画質向上は内容をより正確に深みをもって伝え、その上で様々な未来を切り開くという観点で、とても大事なことなのだ……その原点を教えられた。
 デジタルウルトラシリーズの、そういった姿勢と品質が、DVD業界のスタンダードにぜひなって欲しいものである。

<CAP>
●どのヒーローも怪獣も高画質の画面の中で活き活きと生命を得たように表現されている。これぞ宝だ!

●OPの前に流れた武田製薬のジングル。ウルトラQ第7巻に収録。

●今回の収穫はウルトラQのOPの文字ネガが修復されたこと。

<コラム1>
 本シリーズは「特撮の神様」とうたわれた円谷英二が初めてTVの世界で特撮シリーズを立ち上げたもの。自らメガホンを取ったカットがいくつかある。写真は「鳥を見た」(ウルトラQ第12話)で留置所から巨大化したラルゲユウスが飛び立つカット。他にも『ウルトラマン』のアボラス対バニラがそうである。

<コラム2>
(1)質感とディテール
 画面に映るもののディテール、特に質感の向上が嬉しい。フジ隊員の手袋とヘルメット用バンドの材質の差、ガマクジラ体表の絶妙なグラデーション、ブルトンの体表にまぶされた雲母のような反射材、シーボーズの角の透明さ、アイロス星人の体毛など新鮮な発見がある。またガヴァドン(A)のようにセットの子細がわかるのも嬉しい。

(2)色味
 巨大ラゴンの鮮明な緑、多々良島の極彩色、ギエロン星獣の赤い目と黄色い嘴など鮮烈な色と判る。

(3)電飾
 バルタン星人の目の回転、メフィラス星人の点滅、セブンの目の表情など電飾の輝きが美しい。

<コラム>
 例えばピーターは何種類かあって、小さいものはトカゲにメイキャップしたもの、等身大と巨大化では後者は炎に映えるようウロコに鏡を埋められている。本DVDは今後こんな研究に役立つだろう。

【初出:『アニメージュ魂』(徳間書店) 脱稿:2002.04.12】

※その後、DVDは各々特典をつけたBOX化されている。ただし、BOXは限定でバラ売りが現行商品のようである。

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