海外における日本製"anime"の評価
まず、検索エンジンGoogleに"anime"を入れてみた。ヒット数なんと4130万件! まさに"anime"とは、世界の用語になっているわけだ。ちなみに日本のマスコミが好んで使う"japanimation"は2桁違う31万件。だから、英字の"anime"を使うことを強く推奨する。
観光やビジネスでよく行く先進諸国、あるいはアジア圏では、"anime"を扱った雑誌なりビデオグラムなりは、ちょっと探せばすぐ見つけられるはず。例えばここに掲載したのはドイツのアニメ雑誌で、『天空のエスカフローネ』が表紙になっている(写真1)。熱心なのは、フランス、スペイン、イタリアといった欧州諸国、あるいは香港、韓国、台湾といった元気のいいアジアだが、なんと言っても熱中度がひときわ高いのはアメリカだ。
それがどれぐらいホットかというと、アメリカのアニメファン主催のコンベンション(大会)の中でも代表的なアニメEXPOというイベントが、今年2004年1月、ついに"anime"の本場である東京で開催を敢行したくらいだ。この大会には、アメリカからも多数のツアー参加者が来訪した(写真2)。
なぜ彼らはこれほどまでに"anime"に熱中するのか。その背後には「日本製」の持つ「ハイテク」のイメージが隠されている。これは携帯電話、家電製品から自家用車まで、安価で高性能の日本製品が世界を席巻していることと、"anime"の隆盛は無関係ではない。特に日本製家庭用ゲーム機で育った世代が、ハイテクイメージを求めて支持しているのではないか。
海外での"anime"は、大きく3つのカテゴリーに分かれている。ひとつは『ポケットモンスター』に代表されるキッズもの。もうひとつはアダルトもの。そして最後が本書でも取り上げられているような、青年から成人が観るための作品である。
ここの部分については、驚くべき数の作品が輸出されている。アメリカのショッピングモールにはたいてい大型のセルビデオ店があるが、そこには大き目の棚1個分の"anime"が置いてある。日本ではとっくに大型レンタルですら見かけなくなった20年来のオリジナル・ビデオ・アニメ作品が一堂に会している様は、なかなかの壮観である。
その様子を軽く日本でシミュレーションするには、"amazon.com"で検索してみるのがいい。DVDコーナーでは例のビルボード1位を取った"Ghost in the Shell"(攻殻機動隊/'95)や、"Cowboy Bebop"(カウボーイ・ビバップ/'99)など当然の作品名が上位に出て来る。だが、日本では耳慣れない作品があることに、すぐ気づくだろう。その典型がほぼ常勝第1位の"Ninja Scroll"という作品だ(写真3)。これは川尻善昭原作・監督による『獣兵衛忍風帖』('93)のことである。伝奇的で破天荒な能力を持つ悪の忍者たちと、ハードボイルドで不死身な主人公の対決を描いた大衆的エンターテインメント大作だ。しかし、残念ながら日本の観客にはそれほど浸透していない。そのバイオレンス描写とエキゾチズムに彩られた娯楽性、スタイリッシュで美しい画面は、むしろアメリカのユーザーの方が正当に評価したということだ。2003年にTVシリーズ『獣兵衛忍風帖 龍宝玉篇』がスタートし、10年あけての続編に面食らったものだが、これもアメリカ市場をにらんだものだと考えれば合点がいく。
こんな風に、日米で評価のギャップが生まれた作品は、他にもまだ無数にある。日本では13話で打ち切られたのに、アメリカ資本で続編がつくられた『THEビッグオー』('99)などもその典型だ。また、時代劇アニメ作品が企画中のもの含めていくつか目立って来ているが、それも『獣兵衛』に続けという意味だろう。ということは、われわれ日本人が楽しんでいてドメスティックだと思いこんでいる作品群も、今やアメリカ市場の影響を抜きには語れないところまで来ているということだ。
アメリカで"anime"作品が受ける要素は、古くから「セックス&バイオレンス」と言われていて、それは時代を経た今も大きく変わることはない。ただし、近年もっと重要になってきたのは「エキゾチズム」と「萌え」ではないか。『千と千尋の神隠し』('01)がアカデミー賞を取った理由の本質も、きっとその辺ではないかと、個人的には疑っている。
もうひとつ、海外市場の動きで重要なことがある。それは、彼らの情報収集意欲とメーカーのアメリカ市場への作品投入が加速した結果、この数年で日米の時差がなくなりつつあるということだ。これは、雑誌"Newtype USA"が創刊され、日本と同内容の記事を提供し始めたことで、決定的になったのではないか。"amazon.com"で買える作品の中には、新海誠監督がひとりでアニメをつくりあげた2002年の話題作『ほしのこえ』"Voices of a Distant Star"も入っているし、"Saikano"というタイトルが何かと思えば『最終兵器彼女』('03)のことだったりする。どうかすると、アメリカのファンの方が日本人より最新アニメ事情に詳しい可能性だってある。
こういう状況がわかってくると、"anime"が内にこもるものではなく、国外にも開かれたものだということに、ちょっと誇らしい気持ちもわいてくる。逆に引っかかってくるのは、これほど熱い状況がきちんと日本のアニメファンやクリエイターたちに伝わっていない気がすることだ。それなのに政府までもが輸出産業としての"anime"に期待している。相互認識が空洞のまま、本数だけが増えるのでは、長続きしないのではないかと若干心配になってくる。
せっかく世界がボーダレスになって来ているのだから、内外の気持ちと資金がちゃんとうまく回る形での"anime"発展があってほしい。日本のファンも、もっと海外の様子を見るべきだ。それがまた良質の作品を増やすという良いサイクルを切に願うものである。
<以下はキャプション>
●『天空のエスカフローネ』を扱ったドイツのアニメ専門誌'ANIMANIA'。紙面も熱気あふれる特集記事やファンレター、ビデオやフィギュアの広告がギッシリで圧倒される。フランスやイタリアでもアニメ誌を書店で見かけることが多い。
●東京池袋で開催されたアニメエキスポ東京(通称:AX東京)のパンフレット。実は両側が表紙になって英語版と日本語版をカップリングしたバイリンガル仕様。イラストは伊藤岳彦。バックに配されたデザイン中には「萌」の漢字も…。
●押井守監督作品『攻殻機動隊』の米国版DVDパッケージ。1997年ビデオリリース時の受賞記録などが配され、日本語・英語、両方の音声が収録されている。このVHS版のヒットが、日本製の「anime」注目のきっかけとなった。
●川尻善昭監督作品『獣兵衛忍風帖』の米国版DVDパッケージ。題名の"SCROLL"とは巻物のこと。川尻作品の濃い目のキャラクターとバイオレンス感覚は、アメリカ人の嗜好にマッチするのかもしれない。常勝1位のビデオグラムだ。
【初出:別冊宝島 脱稿2004.02.04】
※とりあえず「ジャパニメーション」と言うのを止めようよ、という根拠になっている話です。先だって雑誌「DIME」で取材を受けたときに、ほぼ同じコトを語りました。ということは、また説明する機会がありそうですね……。検索件数などは3年近く経ってだいぶ変わっていると思います。
※当ブログはテキストの再掲のみです。写真は掲載しておりませんので、ご了承ください。
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