ソール・バスの世界
だいたい月イチぐらいで六本木にある川井鍼灸院(アーティスト村上隆さんの紹介による)に通っています。駐車券のために六本木ヒルズのTSUTAYAに立ち寄ることにしてます。
ここはすぐ近くがテレビ朝日のせいもあって、放送、アート、デザイン、グラフィック系の書籍が満載で、見てるだけでも時間を忘れてしまうほどです。
その2階がDVD、CD売り場なわけですが、昨日棚を見てぴぴっと来たのが「ソール・バスの世界」というDVD。買ったその日に観て、超感激ですよ。
ソール・バスとは何者か。
世界的に有名なデザイナーで、ユナイテッド航空からミノルタ、味の素などの企業ロゴもバスの仕事ですが、やはり映像の分野で言えば、映画のタイトルバックの仕事が永遠に語り継がれるものとなることは間違いないところです。
最初にその名を知ったのは何かのTV番組だったと思います。
今でこそ映画のオープニング(ないしエンディング)に凝るのは当然のことで、そこでは本編とは異なる映像の世界があります。それはアニメーションであったり、タイポグラフィであったり、抽象的な写真が出たり。
ところが、ある時期までは文字のみであることが大半であったと。確かに言われてみれば、『ゴジラ』でも『七人の侍』でもそうなんですよね。小津作品はテクスチャを敷いてるぐらいかな。それを「映画が始まる前からワクワクさせてくれる」ようにしたのが、ソール・バスだというのです。
で、次々に出てきたタイトルバックが、「えっ、あれもこれも同じ人の仕事?」みたいなことで、すさまじい衝撃を受けたんですね。10数年以上前のことのはずだから作品名は忘れましたが、たぶん『七年目の浮気』とか『80日間世界一周』とかその辺だと思うのですが。中でもヒッチコックの『めまい』のタイトルは1958年の作品(氷川と同い年)にしてコンピュータ映像の元祖と位置づけられるわけで。
このDVDでは『ウエスト・サイド物語』『グラン・プリ』『おかしなおかしなおかしな世界』などを含む10作品のタイトル映像を、バス自身が解説するという映像が収録というんで、まさにお宝です。ご本人は1996年に物故しており、だいぶ前の映像ですが、もうすごいすごい。やらなければいけない仕事を横においての30分余り、いいものを見せてもらいました。
やっぱり、世の中には「初めてやった人」ってのがいるわけです。その人がどういう考えで何をどう表現したか。ここまで克明に理詰めで語っていることに、まず興奮しました。タイトル映像の仕事ぶりどおり、ものすごくカッチリした方であり、なおかつ芸術の本質に迫る姿勢は、これは書籍では伝わらない。映像で観て良かったです。ちなみに英語もものすごくカッチリして、構文も明解なので、ほとんどの単語が聞き取れるのにもビックリですよ(笑)。
で、思ったんですが、いくつかの作品ではタイトルが、シナリオからきちんと映画の中身を読み解いた「論評映像」にもなっているんですね。タイポグラフィやアニメーションの仕事もいいんですが、人間性の歪みを、おそらくフェロ板(写真の乾燥につかう)に目や口を反射させてゆらめかせた映像の気持ち悪さを観て、ホントにこの人はすごいと思いました。そういう形で内容を把握した上で総括してるからこそ、イマジネーションを喚起するデザインができるのだと。
ちなみにバスは本編の仕事も少しやっていて、いろんな映画に百万回引用された『サイコ』のシャワー惨殺シーン、あの直接的に刺すところを見せずに恐怖を喚起するカット割りも彼の仕事なんだそうです。確かに言われれば仕事の方向性は同質で、直接的でなく、いかにイマジネーションを喚起するかという表現論で、欠かせない人だと再認識して、ちょっと良かったです。
こういう仕事をグラフィック・デザイナーが担当したというとこが重要なんですよね。つまり、映画の中で(これから)語られるべき諸要素を「抽象化」し、何か別のものに「見たて」て、ギュッと圧縮してより昇華した表現に「加工」する……ってことで。おいおい、そりゃアニメーションの思想の根幹に触るものではないか、という今にして分かるようなことも触発されるわけで。道理でアニメとの親和性が高いと思ったら、みたいな。
通りすがりで直感的に手に取った以上の収穫があって、良い買い物でした。こういう縁を感じる出会いは、やっぱりリアル店舗ならではの醍醐味ですね。今度からこの店では、単なる駐車券消化じゃなくて、なるべくそういうぴぴっと来る商品を買うようにします。
P.S.このDVD,解説書としてバスのロゴ(CI)集がついているのも良いです。そのロゴの数々を見るだけで、またしても「ええっ、あれもこれも同じ人?」状態ですよ(笑)。作品にマスターピースってのがあるんですが、作家にも「マスタークリエイター」みたいなオリジン(起源)に相当する人がいるってことですよね。
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