『スカイ・クロラ』の公開に合わせて緊急で決まった押井守監督のリニューアル作です。劇場用パンフレットに寄稿しました。この13年間のアニメ制作における環境変化と今回のリニューアルの意味のようなことを書いてます。
具体的にどう変わったかは、以下のサイトなどをご参照ください。
http://eiga.com/buzz/20080609/2
それで初号試写も拝見したんですが、新宿まで出かけて拝見しました。
ミラノ2(500人クラス)から急遽、2日目にしてミラノ1(1000人クラス)にパワーアップした上映。何の映画と差し変わったかと言えば、同じタツノコの血が入った『スピード・レーサー』。しかもその監督は押井版『攻殻機動隊』にインスパイアされて『マトリックス』を撮ったウォシャウスキー兄弟というんですから、濃い因縁です。
(ちなみに『スピード・レーサー』はメチャ気に入りましたが、興業が厳しいのは何となく分かるという点でも微妙な気分)。
パンフ用の確認映像、初号試写も見てきたわけですから、正直言って追加確認程度の気分だったんですが、驚くべきことに映画の印象がぜんぜん違いました。劇場を7割方埋める観客(しかも若い)も良かったけど、あのハコにして思い知った映画のパワーというものが確実にありました。
上映の状態としては、映写距離のせいでむしろ暗めになってるんですが、それが良かったと思います。圧倒的にでっかくなったスクリーンで、ほの暗い映像を見つめる心情は、今はなき品川アイマックスの『イノセンス』のとき、生きながらにして幽冥境をさまよう経験をしたときの再現のようでもあり。
効果音、音楽とパワーアップしていることはもちろん、映像の色味と手触りを『イノセンス』寄りにしているせいで、連作としての意味性(あちこち対になってるとことか)もじんわりと染み出てきて、とにかく良かったです。
これまで気になって気になって気になって仕方がなかった(笑)3Dの混入も「あれ?」と拍子抜けするほど違和感なしでした。暗めになって、ディテール減ったせいか、それとも慣れたのか……。
これはやはり映画館で観ておくフィルムです。いま大スクリーンで観て、この光、この音、この空気感を体験しておいた方がいい映画です。こんなに感想が変わるとは思いませんでした。
それにしても、13年前にこの差し変わっていない部分の大半を手で描いてしまった人たち、やっぱすごすぎですよ。それも良かった。ちょっとしたメカ(多脚戦車)の挙動とかエレベーターの開閉とか、どんなにCGっぽく見えても手描きですからね。そういった、もう二度とは帰らない一種の頂点を確かめるという思いもありました。
そして、最後にその寂寞の念を断ち切るかのような、あのラストシーンのめくるめく3D都市の全景、その圧倒的な空間ボリューム。そこに見え隠れする官能は、間違いなく押井監督の次回作への意欲そのものだと思いました。
これと「スカイ・クロラ」、「ポニョ」をほぼ同時に体感できるなんて、今年の夏はすごいなと思ってるところです。
P.S.先日の押井守BOXの件ですが、「P1」「P2」「攻殻」のDVDマスターは旧版というか、最初のDVDのものでした。BDと共通のものかもしれないと、惑わすような発言があったことをお詫びします。その分、「P1」「P2」には5.1chの他に2.0chのオリジナル音声が入ってますし、「攻殻」には特別番組が収録されてるので、ご容赦を(要するに一長一短なので……)。