NHKアニメ「精霊の守り人」試写
4月からNHK BS-2で放送予定の『精霊の守り人』の試写(第1話、第2話)を拝見しました。実に感動的で、「ああ、NHKでアニメを放送するというのは、こういうことなんだな」と改めて思いました。
上橋菜穂子による児童文学が原作。独特のファンタジー世界を映像化するのは『攻殻機動隊SAC』の神山健治監督。ある事件をきっかけに、王子を暗殺者から護ることになった女用心棒バルサの生きざまを描いたTVシリーズです。
みどころは、ズバリ「人間が描かれているところ」です。バルサがふと口にする言葉の重み。あらゆる登場人物が背負っている何かが絡みあって、いつのまにか引き込まれる感覚があります。なぜ王子を助けたのに礼がないのかなど「?」と思うことには、必ず「!」と分かる描写があり、そうなる理由も分かる。誰がどう悪いなどという「悪役」もなく、それぞれがそれぞれの理由を持って動くうちに、それが絡みあって物語が転がり始める手際は実に見事でした。2話が終わった瞬間、「え? 3話は」と、みなさん思ったようです(笑)。
記者会見でも神山監督が述懐していたことにも関連しますが、実はアニメーションでファンタジーを描くのは難しい。難点は、世界を文字の説明ではなく映像で構築するという点にあるんですね。物量と説得力、その両面で「何でも描ける」だけに「何も描いていない」、あるいは意図に対して描ききれない感じのするアニメ作品は多いと思います。そして難しいがゆえに、その「世界を構築する」という、いわゆる「世界観づくり」に心血が注がれがちです。
しかし、この作品は流行の「世界観」には意識が向いていないです。むしろ、そこにいる人が背負ってきた過去、目ざす先の未来、そしてその両の時制のはざまで、しっかり足を地につけて生きる様が非常に端的な描写で濃厚に浮かびあがってくるわけです。本来、「人は人にしか興味がない」わけですが、アニメーションでその訴求力を持たせるのは実は至難の技。
先行してNHKの番組でメイキングのレポートをやっていたのですが、そのときから1シーンをギリギリと煮つめ、どうしてその台詞や行動が出たか、シナリオからまず練りこむ神山監督の様子に、「これはただごとじゃないな」と思っていたんですが、その期待に見事応えてます。
まあ、その反面かなり「地味」なところはありますが、この感じで最後まで駆け抜けてほしいところです。何かあれば積極的に応援したい、春の1本です。
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